昔むかし大昔の“ちょっと乱暴な船乗りたち”って程度で済んでた、そりゃあ呑気な時代の海賊ならばともかくも。悪い意味での群雄割拠も目覚ましく、その煽りでか海軍の規模や統率もぐんぐんと増してる昨今に、それでなくたってバッチリバリバリで海軍に追われてる連中だってのに、
「…このご陽気さはどうよ。」
船長が真っ先に“鼻割り箸”なんてな剽軽な一発芸で盛り上げてやがる。長っ鼻野郎がその鼻の先へと皿やコップを立てて見せれば、何の負けるかと、ゴムゴムで伸びまくりなところへ料理を詰め込みまくったデカ腹へ、へのへのもへへと落書き書いた船長が腹踊りをご披露する始末で。お祭り野郎度には秘かに自信があったフランキーでさえ、
“切迫感も悲壮さも、欠片ほどもありゃしねぇ。”
三日月を並べたみたいなサングラスをちょいとずらし、おいおいと呆れてしまったほど。何でもかんでも宴の理由にしてしまう、ご陽気な一味。クリスマスだ、宴会だ…っと、そりゃあてきぱき準備を進め、あっと言う間に飲めや歌えやの大騒ぎの晩餐に突入してやがる。どんな窮地にあったって、キリスト様になぞ祈ったことなんてなさそうな顔触れだってのに。
“むしろ悪魔とか魔界関係者の方と友達なんじゃねぇか?”
よくもまあハロウィンに地獄へ強制送還されなんだなと、ワルさじゃあ誰にも負けないと高をくくってた自分が言うんだから相当なものだと、新参者の船大工が半ば呆れもって、その胸のうちにて呟いた。
あの世界政府が司る正義の象徴、司法の島“エニエスロビー”にて、
何千人という海兵たちを薙ぎ倒し、
世界政府黙認と言っても過言じゃあない、
殺し屋集団“CP9”の精鋭たちを相手に、
何度も肝を冷やしたほどのとんでもない修羅場を、満身創痍でくぐり抜け。
考古学者だというだけで弾圧された“オハラ”という島の生き残り、
連れ去られかけてた仲間の考古学者を取り返した、
正真正銘、ホンモノの海賊たち。
そいつらに加担していたからとの白々しい理由でもって、
懸賞金が付いてしまった解体屋のフランキーを
船大工という新しい仲間として引き入れて。
泣いて別れた愛船の後継、
新しいお船の進水式からそのまんま、ウォーター・セブンを旅立った、
麦ワラ海賊団のご一行…なのではあるが。
“全っ然、真摯でも悲壮でもねぇってのが…なあ、おい。”
油断をするといくらでもジョッキに酒をつぎまくる“酌上手”にも事欠かない、酒豪の集まりから何とか離れ、酔い醒ましにと甲板へ出てくれば、やはり大騒ぎの熱気にあてられたクチか、先客がいて。
「どうしたトナカイ。」
「…っ。」
不意な声掛けへ、小さな肩が ひくくっと震える。一緒に死線を乗り越えた末に仲間に入った船大工。最初の内こそ、敵対関係にあったことを持ち出して来もした彼だったけれど、今じゃあ大事な仲間に違いないと判っているはず。だってのに、それでも油断は出来ないというのだろうか、警戒心がビンビンに立ってるのがこっちにも判って。
「…はは〜ん。」
ああそうかと、フランキーの理解が達したお答えは、
「さてはお前、人見知りするタイプだな?」
「うう〜〜〜。//////」
ま、しょうがないよなぁ。トナカイってのは群なす草食動物だからよ、警戒心が強くてナンボだ、そのっくらいは判ってらぁと。心の広いところを見せたれば、
「トナカイトナカイ言うなっ!俺はトニートニー・チョッパーだっ!」
「ほほぉ、ご大層な名前だなぁ。」
「ドクターが、つけてくれたんだっ!」
「ドクター?」
「ああ。世界一の名医だった Dr.ヒルルクが、俺にってつけてくれたんだっ!」
「…ふ〜ん。」
むんっと仁王立ちになってまでして、ムキになるところが何ともお子様。判りやすいったらありゃしねぇ。
「お前、その人のこと好きなんだな。」
「おお、悪いかっ。」
「いんや。悪かねぇ。」
そっかそっかと感慨深げに繰り返し、
「大好きな人からもらった名前か、そりゃあ凄げぇプレゼントだよな。」
「…え?」
真ん丸な眸がくりりっと瞬いて、やっとのこと、落ち着いてこっちを見やがった。おうおう、可愛いじゃねぇのよ、トナカイちゃん。ああ、そうそう。名前の話だったよな。
「名前ってのはよ、一人しか居ねぇ分には必要がないんだ。判るか?」
「???」
「だからよ。」
ま〜だキョトンとしてやがるところへ、説明付け足してやる俺様って、ホント、何て親切なんだろか♪
「ぶっちゃけ、一杯いるそん中からお前だけ呼びたいって時に不便だからって、つけるもんだ。」
呼ぶために、他のと くっきり分けるために。
「いいか? 呼びかける相手だからつけるんだ。おいでとか、元気か?とか。そうやって声かけたり、お前だから任せんだぞとかって時に。他の奴じゃねぇ、他の奴じゃダメなんだって、お前じゃないとダメなんだって思うよなことがあるから、名前を訊いとく。ないなら つけてやって、それを呼ぶんだ。」
――― あなたがあなたであることを、
あなたでなけりゃあとの求めを込めて。
名前ってのは思ってる以上に大事なもんなんだ。それをお前、好きな人からつけてもらえたなんて、幸せもんだな。そうと付け足せば、やっとのことで意が通じたか、
「…えへへぇ。////////」
照れるように笑って見せて、
「でももう呼んではもらえないけどな。」
「そか。悪いこと聞いたな。」
「ううん。」
おお拗ねないか、偉いぞトナカイ。ああ、判った判った。えと、トニイトニー・チョッパー、か? なに? チョッパーでいい? だったら最初からそう言えっての。こんの可愛い野郎がよっ♪
「此処だけの話。俺もな、一番呼んでほしい人はもういねぇ。」
「あ…。」
お揃いだなと、かかか…って笑い飛ばすつもりでいたらば、
「…俺たちが呼ぶから。」
いやに神妙な顔になりやがる。ああ"?って、ちょいとドスを響かせて訊き返せば、今度は怯えも見せないで、
「フランキー。俺たちが呼ぶから、だから…。」
おやおや。嬉しいこと言ってくれんじゃねぇのよ、ト…チョッパーちゃんよ。
「…おお、そうだな。」
よろしく頼まあと、肩をどやしてやったらば、あのなあのなと急に擦り寄って来やがって、
「フランキーのお腹の冷蔵庫、綿あめ入れたらどうなるんだ?」
「はあ?」
お眸々キラキラさせて、何を訊いて来やがるかな。夜風に吹かれて真っ白くなりかけてるところへ、
「おお、何やってんだっ、そこの二人っ!」
ヤベ〜、酔っ払いに見つかっちまったぞ。いいか逃げんぞと、小さなトナカイ小脇に抱えて逃げを打つ。やっぱりドタバタ、落ち着かないまま、聖夜はゆっくりと更けてゆく。
HAPPY BIRTHDAY! TONY TONY.CHOPPER!
& メリー・クリスマスっ!
〜Fine〜 06.12.24.
*何だか突貫ぽくてすいません。
クリスマスはどうでもいいけど、
いっけない、チョッパーのお誕生日じゃないのよと、
大慌てで書きました。
**

|